会長 筒井秀一(高知市立自由民権記念館長)
高知は歴史を売りにしていることになっています。戦国の雄・長宗我部氏、坂本龍馬はじめ多くの偉人を輩出した幕末維新そして自由民権などなど、で有名です。
ただし、実物資料保存という点では結構厳しい状況があります。高知市は、1945年7月4日の空襲で、県立図書館、高知新聞社、高知県庁、高知市役所が全焼したことで、相当数の歴史資料、県市の公文書が失われ、戦前の地元新聞も揃わないことになりました。さらにこの空襲と翌年の南海地震によって多くの民間資料が失われました。
戦後の資料保存はどうなってきたのでしょうか。戦後復興をになった文化施設は図書館と公民館であり、地域資料を収蔵できるのは図書館のみの時代が長く続きました。
その後、県立では、1969年に高知県立郷土文化会館が開館、これは、高知県立歴史民俗資料館(1991)、高知県立美術館(1993)、高知県立文学館(1997)に分化しました。また、1991年には高知県立坂本龍馬記念館が開館しています。
時間があいて、2017年には、土佐山内家宝物資料館を発展させて高知城歴史博物館が開館、2018年には高知県立坂本龍馬記念館が博物館機能を充実して再開館、さらに県立図書館と高知市民図書館本館が事実上一体化した新型図書館が開館、2020年には県立公文書館が開館しました。
このように、高知市域において資料保存機関は一定数整備されてきた。高知市以外でも同様の傾向があります。しかし、多くの収蔵庫は満杯あるいはそれに近づいており、今後の収蔵能力すでには不足という段階にある。新たな収蔵場所の確保が急務といえます。
風水害、津波、コロナ断捨離…失われつつある「地域の記憶」
これらの機関が収蔵する歴史資料とは、指定文化財や「なんでも鑑定団」に登場するお宝だけではなく、個々の家や地域に残る、昔の暮らしぶりなどその土地に住む人々の活動を知る手掛かりになる様々な資料であり、いわば「地域の記憶」というべきものです。それらは膨大な量になることが理解されることでしょう。
そして多くが、現在進行形で失われつつあるのも現実である。その要因として、個々人の意識、社会的理解の問題に加え、代替わり、引っ越し、風水害などが大きい。さらに、高知県の場合何といっても地震による津波が根こそぎ資料を消滅させることは容易に想像されます。
本年、新型コロナウイルスにより、在宅時間が増え「コロナ断捨離」なる現象が起こっていると報道されてきました。これを受け、こうちミュージアムネットワークでは「歴史・文化・自然史資料の保存・継承について県民の皆様並びに諸機関へお願い」を発し、資料の散逸を少しでもくい止めようとした。その結果、30数件の連絡があり、対応しているところです。